SDGsの課題、あるいはサブカルと資本主義について~映画『もったいないキッチン』
映画『もったいないキッチン』は、オーストリアの映画監督ダーヴィド・グロス氏が制作したドキュメンタリーだ。
本作でダーヴィト氏はパートナーのニキさんと共に廃材を使ったハンドメイドのキッチンカーを駆り、日本各地で食品ロスの問題に取り組む人々の姿を追い求める。
「もったいない」は身近によく使う言葉だが、この概念が日本独自のものであり、「勿体」という仏教用語に由来するものだということは今やよく知られるところだ。
その日本では年間5~6百万トンもの食品が廃棄されている。これは一人当たりご飯1杯分~おにぎり1個分に相当する食べ物を毎日捨てている計算で、その廃棄処理には2兆円かかると言われている。また、FAO(国際連合食糧農業機関)によると、世界では生産量の3分の1に当たる約13億トンの食料が毎年廃棄されている。
ただ、途上国ではなにより技術、設備、インフラの不備から食品ロスが生じるが、日本を始めとする先進国のそれは人々の食べ残しに始まり、工業規格や企業ガバナンス、公衆衛生といった高度な社会システムの運用によるもので、国によってはロスが生じる理由が異なる点は留意するべきだろう。
また対人口比で比べてみると、先進国において日本の食品ロスは各国でそんなに多いわけではない(表参照のこと)。
食品自給率だが、カロリーベースではおよそ4割だが、生産額ベースでは6~7割で、低いことは低いが実はドイツやイギリス、スイスとそんなに変わらない(一般に自給率は生産額ベースで捉えるのが主流。表の生産額ベースの数字は古いものである)。
だから本作は些か厳しい評価をしているかもしれない。それほど日本の成績が悪いわけではないが、ともあれ著しい「経済ロス」であることには違いない。
というわけで、SDGsが提唱される昨今、本作は人々の興味を惹きやすい作品だろう。さすが文部科学省選定、学校教育教材に指定されるだけのことはある内容となっている。
加えて、本作に限った問題ではないが、「SDGs」は時代を遡れば80年代の「エコロジー」ブーム、さらにヒッピー文化やビートニクス、ポップカルチャーなど、源流を辿るとその本質は「資本主義」と密接な関わりがあり、その根底においてある種の自己矛盾を孕んでいる事は指摘しておきたい。
例えば、確かに人間の活動は炭素循環のバランスを崩しており、地球温暖化は科学的に実証され得る人類の脅威だが、常にその対策はEVやメガソーラーに見られるような各国、あるいは各企業体の産業的戦略、イノベーションとして要請されるというようにだ。
例えば、廃材でキッチンカーを作ったとしても、それを日本各地に運ぶために化石燃料を使っているし、彼らの身につけている靴も服も、この映画をもり立てている音楽も、ファッションも、その全ては大量生産品であり、20世紀以後の複製技術を前提にしたものだ。
例えば、この「もったいない」の精神を私たちは今どうやって人に伝えているかというと、1日中働いても1ドルも貰えないという少年少女たちが組み立てたスマートフォンや半導体を通して行っている。どんな綺麗事も彼らの犠牲なしには成り立たない。そういう世界で我々はSDGsだの、世界平和だの、市政がどうちゃらだの、言っているのである。
この問題は、現代におけるひとつの難問(アポリア)であり、私たちは試されている。
確かに、誰もがこの途方もない資本主義システムの円環から逃れられるはずはなく、そこではSDGsもまた「消費コンテンツ」のひとつに過ぎない。
だが、しかし、食の安全や、自分たちの暮らしがどうあるべきか? 「もったいない」精神は資本主義社会において構造的に不可能なことなのか…。
そのような疑問を持つこと自体、無意味なのか。というと、果たして、どうだろうか…。
本作の良さは、二人の活動が、ゴミの再利用だったり、理想論の啓蒙活動に留まらなかったことだと思われる。
きっかけは「もったいない」という社会への関心だ。
だが、いつしか彼らの旅は、創作性のある現代の食文化の探求となり、暮らしや生活、人と人との出会いや繋がりを問い直す高みへと達していく。その様にはやはり感動してしまう。
彼らが示したのは、例えそれが答えのない問題だとしても、他方から見てそれが偽善だと揶揄されるとしても「考えることや行動することを止めてはいけない」ということではないだろうか。
ところで、本作はいわゆる「ミニシアター」の部類だが、郡上のような地方でこうした「ミニシアター」の上映の機会に遭遇するのは、自分にとって新鮮な体験だった。
名古屋シネマテークやシネマスコーレに入り浸っていた若かりし頃を思い出し、作品とは無関係なツボにハマってこっそり泣いていた。
一人の人間が成長するためには、必要な時期に体験しなければならないことがいくつかある。
それはある人にとってはパンクロックであったり、ある人にとってはコミックやムービーであり、別のある人にとってはラノベやビデオゲームだったりするかもしれない。
歳を取って分かったのだが、あの頃、身を潜めた映画館の暗闇は、小劇場のスモークの匂いや、ライブハウスの喧騒は、あの消費文化にどっぷり浸かっていたあの時間は、私の人生において計り知れない影響を与えたのではあるまいか…。
豊かな自然に加え、情緒ある宗教的景観、機知と気概に満ちた人々の精神性。これは郡上の魅力だと言えるが、一方で欠けているものがあるとしたら、サブカルチャーと出会うべくして出会えるような「リアルの場所」「機会」だろう。やはり大都市に比べると圧倒的に不足しているし、「リアル」となるとアクセスしようにも物理的に不自由だ。
上映後、主催者の清水さん(郡上の食といのちを守る会、たねまきシアター)は「大変だが何かせずにはおれない」と仰っていた。ミニシアター、自主映画には社会問題をテーマにしつつも、アート、ポップカルチャーとして創造的な作品が数多く存在している。今後とも続けてほしい活動だ。
【イベント】
「もったいないキッチン」上映会+長良川カンパニーさんによる“完熟堆肥”のお話
3月13日(水) 9:45〜12:00 白鳥ふれあい創造館(郡上市白鳥町白鳥359-26) 3階視聴覚室
主催・ハチドリ倶楽部 hachidori.club@gmail.com
共催・郡上の食といのちを守る会・清水秀正 080-3731-8282
参考文献
消費者庁消費者教育推進課 食品ロス削減関係参考資料 令和元年7月11日版
農林水産省 食品廃棄物発生量、再生利用量の主要国比較
World Health Organization Global Health Observatory data 2016
もったいないキッチンオフィシャルサイト https://www.mottainai-kitchen.net
※もったいないキッチン®は登録商標です。
※本文で引用された画像の権利は保護されています
ありがとうございます
上映会にご来場いただき、とても嬉しく思います
日頃、ミニシアターの重要性を訴えてはいませんが
本当は伝えなければならないと思っています
こんなことやってて、どうなるんだという自問自答
繰り返し繰り返し、やってきます
でも、こうして映画を評価していただけるのは、多分初めてだと思います
時間がかかるでしょうが、少しずつ浸透していって
たねまきが、いずれ実ることを願い、ひたすら続けていく、、
ハチドリのひとしずくのように・・
ところで、今日になって(今頃になって)
30万用意できんか?
あと2日ある、考えとけよ
そんなこと、今頃言ってくれるなあー
何にも用意出来てへんでー
お読み頂き光栄です。ありがとうございました。
いやー、ミニシアターっていいですね。今後もご活躍を期待しております。
若い方々にも観る機会があるといいですね!