「ジェンダー」はいつ、どうやって日本の常識になったか

朝日大学、宮坂果麻理教授の男女共同参画学のクラスで有井議員と共に講演を行いました

私は主にジェンダーについて、有井議員は自身の活動歴から郡上市での男女共同参画事業の取組についてプレゼンしました

今回お話した内容とは若干異なりますが(学生にはもう少し易しい話をしています)以下、ジェンダーとフェミニズムについて触れておきます

「ジェンダー」という概念

私たちが日常的に「ジェンダー」という言葉を使うようになったのは、比較的最近のことです

「生物学的な性(セックス)」と区別し「社会的・文化的な性別(ジェンダー)」を指す言葉として知られるこの概念には、半世紀にわたる社会学やフェミニズム研究の蓄積、そして日本の政策決定の歴史が深く関わっています

概念の源流と導入期(〜1980年代)

「ジェンダー」概念は、1950年代にアメリカの性科学者が、生物学的特徴とは異なる社会的・文化的役割としての性別を定義したことに端を発します

ただ、当時は性科学の研究上必要とされて必然的に生じたひとつの見方、「仮説」といったものでした

女性の権利拡大とか、社会制度の批判や見直しといったフェミニズム、社会学への応用化が進んだのはもっと後の話です

例えば、日本において、この概念が本格的に導入されたのは、1970~80年代にかけての時期ですが、これは日本のフェミニズム運動の高まりと、社会学や女性学における研究の深化が背景にありました

「ジェンダー」という概念はポストモダンなフェミニズム運動を強く後押ししました

「女性の地位向上」や「男女の不平等」を分析する上で、「ジェンダー」は極めて重要なツールだったのです

しかし、この段階おいて「ジェンダー」は学術概念、専門用語として難解であり、その使用は主に大学や研究機関の学者、一部のフェミニスト、左派活動家のコミュニティに留まっていました

政策ツールとして公的に浸透(1990年代)

「ジェンダー」が専門分野から社会全体へと広がる最大の転換期は、1990年代半ばに訪れます

まず国際的な出来事がありました 1995年の北京世界女性会議は、国際社会における「ジェンダー」視点の重要性を広く訴えました

この流れを受け国内では法整備が進みました

そう「男女共同参画社会」です ジェンダーよりむしろ日本ではこの言葉の方が馴染み深いのではないでしょうか

政府は「男女共同参画の形成」を国家目標として掲げます

特に、1999年に制定された男女共同参画社会基本法は、「ジェンダー」概念を行政用語として正式に位置づけ、その後の行政施策の基盤となりました

この時期、「ジェンダー」は、差別や不平等を是正するための理念から、具体的な政策を立案・実行するための公式なツールへと変化していったと言えます

それは左派活動家や気鋭のフェミニストが国家や父権社会を批判する言葉から、政治家や官僚、役人、コンサル、企業の経営者や人事部が組織を統べるために使う言葉へと変化したのだと言い換えてもいいでしょう

こうして「ジェンダー」という概念と関連用語は、行政が主導する形で広報や教育の場にも浸透し、一般の人々も耳にする機会が劇的に増加しました

※インターネットの普及、LGBTQやポリコレのブーム、グローバリズムやポピュリズムの台頭も並行する背景として影響があったと言えます

論争による大衆化と定着(2000年代初頭)

「ジェンダー」という言葉の認知度をさらに高め、社会全体に賛否両論を伴って定着させたのが、2000年代初頭に表面化した「ジェンダーフリー・バッシング(ジェンダー・バックラッシュ)」です

これは歴史的な事件だったわけですが、しかし現在、男女共同参画を推進したり、LGBTQや性教育の啓発・支援活動をしているという女性議員でも「ジェンダーフリー・バッシング(バックラッシュ)」を知らない、知らないまま教えているケースは少なくありません

個人的には驚くべき事態だと感じていますが、これも時代なのでしょう

この論争は、男女共同参画施策や教育現場における「ジェンダーフリー」というフレーズをめぐり、保守的な価値観を持つ勢力から「伝統的な家族観の破壊」「過度な性差の否定」「過激な性教育」といった強い批判が巻き起こったものです

この価値観の対立は現在もまだ続いているわけですが、当時この激しい論争は、国会や地方議会、そして大手メディアを巻き込みました

結果として、「ジェンダー」という概念は、抽象的な学術論ではなく、社会的な価値観や制度をめぐる身近でリアルな対立軸として、一般大衆に可視化されました

ジェンダーフリー推進を掲げるフェミニストの運動は、当時の保守勢力の猛反発にあい、後退しました

代わりに行政や教育の現場といった公的な場面で保守勢力によって進められていったのが「男女共同参画」です

この時の経験が日本のフェミニズムのトラウマとなり、現在でも「男女共同参画」を批判するフェミニストは少なからず存在します

しかし、皮肉にもこの対立構造を通じて、「ジェンダー」という言葉、「男女平等」の概念自体は、より多くの人々、施策の語彙に組み込まれることになりました

社会を変える言葉/言葉を変える社会

「ジェンダー」は、学術研究で生まれ、政策によって公的な地位を獲得し、そして激しい論争を経て、私たちの手元に届いた言葉です

それは単に男女の社会的な性差を指す言葉ではなく、本来的には不平等を問い直し、より公正な社会を目指すための視点を内包しているものでした

ただ現在、フェミニズム、ジェンダー論、LGBTQをはじめとする左派イデオロギーのあり方は様々な問題を抱えています(というか危機に瀕していると言うべきでしょう)

第一に、左派イデオロギーこそがグローバリズムやポピュリズム、ネオリベラリズムを補完しています

もはや左派イデオロギーは弱い立場の人々や労働者を救う理念ではなくなりました

それは国家を凌ぐ力を持ったグローバリストたちが人々をコントロールするための認知戦のツールのひとつです

つまり左派イデオロギーは資本主義社会に取り込まれた、回収され、歯車のひとつになったのだと思います

このような現在、「男女共同参画」「男女平等」「ジェンダー」…こうした言葉を使うとき、私たちはその背後にある歴史的な文脈を知っておく必要があります また、現在それがどんな意味を持つか、どんな問題が生じているか、そこにも注意をはらわなければなりません

言葉は社会を変えるほどの力を持っているわけですが、同時に社会によって言葉の力もまた変化します 

私たちは、この言葉の歴史と課題を知った上で、何を問い直し、何を達成すべきが考え続けなければなりません

有井議員の紹介

郡上市議会議員でありキャリアコンサルタントの有井弥生氏による本講演は、郡上市の男女共同参画推進における実践と課題を報告した

有井氏は、20年にわたるハローワークでの勤務経験や、市の男女共同参画プラン策定会議会長、女性活躍応援事業への関与といった自身のキャリアを紹介し、行政現場での取り組みを振り返った

郡上市の現状は、市民の意識(「社会は男女平等」17.0%)や意思決定層の女性比率(審議会22.5%)に大きな課題を抱えている

特に、医療・観光など「地域の現場は女性が支えている」一方で、「意思決定は男性中心」という二層構造のギャップが地域の持続性における最大の改善ポイントであると分析した

この課題を解決するため、今後は審議会への女性参画枠の明確化や、託児・オンライン活用など「参画しやすい仕組み」づくりを推進し、多様な声が政策に届く「開かれた意思決定プロセス」の構築が不可欠であると結論付けている

講演、取材を受け付けます

みずのまり議員 「論」本質的な理解 イデオロギーに偏らない客観的な知識と分析力

ジェンダー論、LGBTQ 良い面、悪い面、社会やライフスタイルにどんな影響をもたらしたか…など右左に偏ることなく、なるべくニュートラルに、基本的な「知識」と「考え方」をお伝えします


有井弥生議員 「実践」具体的な解決策

組織戦略、キャリア戦略としての男女共同参画など経験と実効性 行政や企業が取り組むべき男女共同参画事業の実践と効果、組織の成長に繋がるジェンダー視点の導入、戦略の具体例について講演 個人のキャリアデザインとワーク・ライフ・バランスを両立させるためのノウハウを提供します

「ジェンダー」はいつ、どうやって日本の常識になったか” に対して2件のコメントがあります。

  1. 大薮豊数 より:

    とてもわかりやすいブログでした。
    我々の職場や社会ではまだまだ理解が行き届がない。『昔はなぁ〜』とか『外国じゃないんだ』などの言葉で全否定する方も未だに一定数います。また、こう言うのがなぜか周りに影響力を与えられる立場にある。
    お二方のような皆さんが地道に発信し続けることの大切さ、ブログを読んでいて感じました。

    1. mizunomari より:

      大藪様 コメントありがとうございます 普段、コメントがつくことがないでとても嬉しいです 女性と男性とでは統計的に特性というものもあるので、ジェンダーフリーやフェミニズムも行き過ぎた面はあると思います ポリコレなんかが特に良い例かなと思います LGBTQも含めて、これらは主にキリスト教文化圏におけるカウンターカルチャーとして北米及び欧州諸国で発達し、世界の先進国へ普及していきました(SDGsなんかもそうですよね) 日本は戦後、アメリカナイズされましたから、これらを私たちは抵抗なく受け入れていますけど、果たして良かったのか…という、色んな意味で検証しながら、修正しながら進めていくしかないのかなと思います

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