郡上で農業に挑戦したい若い人たちへⅠ

孤立しない農業
雪害で様々な方々にヒアリングしました(前回「雪害の補正予算について」)
いくつか地域社会における問題点、課題点を感じたので述べます
大まかに2点あります
一つ目は農家さんの課題です
例えば、補助金の対象から外れてしまった農家さんがお見えになりました
農業のセーフティネットは他の分野に比べると比較的手厚いのですが、農作物の被害に対する救済措置(災害や病害虫などによる被害)で支払われる補助金や支援金の多くは、原則として「個人」ではなく「団体・組合」や「経営体」を通じて行われる場合が一般的です
このため、生産部会でなくてもいいので、気の合う人たちと連携し「共同体を形成すること」が推奨されます
農家さんの課題としては、リスクヘッジとグロース戦略として「セーフティネットをかけること」と「共同体の形成・運営」が特に重要だと感じました
二つ目は災害ボランティアの問題です。
「災害ボランティア」といっても、色々とあるわけですが、ここではボランティアで一般の人を動員する「ボランティア組織」「NPO団体」といった組織体の活動とそのあり方の問題点についてです
付随して、そうした団体に我々議員や行政はどう関わるべきか、という問題もあると思います
ボランティアは災害時に行政や専門業者に出来ない隙間を埋める活動を担うもので、昨今では様々な研究や分析が進められています
大事な存在ですが、しかし、一方で特に地域社会におけるボランティア組織や慈善団体が必ずしも当事者や地域住民を代表しているかというと、実はそうではないという場合もしばしばあります
例えば、団体が『被災者へ分配される義援金(寄付)ではなく、被災者を支援する活動への寄付だ』とうたっている場合、それで集まったお金は被災者(例えば農家さん)には入りません
もちろん予めそう明言しているので、これは違法ではありません
ほとんどの人は見過ごしがちですが、これは「集金スキーム」なのです
こうした団体と農家さん、地域の人たちはどう距離を取り、どう付き合えばいいでしょうか
また我々議員や行政はどう関わるべきでしょうか
ただし、ここではあくまでも「一般論」として、地方や被災地では「ありがちな問題」として扱います
なので、ここで言う「農家さん」や「慈善団体」は、必ずしも特定の農家さんや、特定の団体、NPOのことでは決してありませんので、そこはご注意ください
可読性を考え、二本立てでお伝えします
まずは農家さんの課題です
セーフティネットと連携
農業は天候・市場価格・病害虫・流通・資材コストなど、多くの不確定要素に左右されるとても不安定な事業です
ましてや、わざわざ僻地の厳しい環境を選び、新しい農法や作物に挑戦するとなると、さらにリスクが増します
しかし、共済に入っていない兼業農家さんは珍しくありません
収入源が別にあることや、そもそも休耕地への補助金があることなど、そこには災害や病気等でダメージが生じても相殺出来る予測が立つからです
兼業農家さんが多いのは、農地改革や減反政策など、国の農政・補助金制度の構造的問題が深く関与しています
日本の農業が辿ってきた歴史的背景に無関心なまま、経営戦略を持たず、他に事業や財源があるわけでもないのにセーフティネットに入らないのは危険な行為です
何かあったらひとたまりもありません
もしご家族がいるなら家族を守らねばならない責任に背いていますし、何かあれば取引先への信用失墜にも繋がります
これから農業をしたい人は必ず自分の目的、事業にあったセーフティを確認し、しっかりかけるようにしましょう
分類 | 制度名 | 主な対象 | 主体 |
公的共済 | 収入保険制度 | 農業全般の所得減少 | 国・NOSAI |
共済 | 農作物・果樹・家畜共済 | 作物・家畜 | NOSAI |
JA系共済 | 傷害・生命・施設保険 | 農作業事故、火災等 | JA共済 |
労災 | 労災特別加入制度 | 個人農業者の事故 | 労働局等 |
自治体支援 | 鳥獣害対策・施設補助 | 中山間地の農家 | 市町村等 |
民間保険 | 収入補償・火災・PL保険 | 加工業含む農業者 | 損保会社 |
農業の六次化や有機、新しいタイプの農業に挑戦したりする場合、これまでの農業の常識やスタイルに囚われず、一種の起業、ベンチャービジネス、アグリビジネスとして捉え、自分の目的に見合った計画性と合理性に基づくリスクヘッジが必要です
共同体を形成するメリット
先述しましたが、自然災害等による制度的支援には、一部、個人経営体も対象となるものがありますが、多くは団体・組合など、一定の規模や組織性を前提に設計されています
なるべく農家さん同士で小規模でもいいので連携し合い、任意団体や組合など共同体を作りましょう
共同体を形成するメリットは次のようになります
①補助金・支援制度の申請が有利になる
一定規模以上の団体であることで、自治体や農業関係機関からの支援・補助金が受けやすくなる
各種申請においても団体であることが加点対象になり有利
②リスクの分散と支え合い
自然災害や病害虫、作業負担などのリスクを分散する
緊急対応、相互支援が団体で可能になる ※次章に関連
③資材や販路の共同化
共同購入によるコスト削減
出荷や販路の開拓において交渉力が向上する
製品化、パッケージング、ブランディングも実現しやすい
④情報・技術の共有
当事者集団として公式の情報を発信出来る ※次章に関連
栽培技術、補助金情報、市場動向など情報の収集と共有
協働作業によることで新技術への挑戦もハードルが下がる
⑤社会的信頼の確保と地域貢献 ※次章に関連
単独の農家よりも、集団としての存在は行政や地域社会からの信頼性が高い
災害時の協力体制など自主的に行えます
移住定住者への受け入れにも対応可能
いざというとき自分や家族の身を守るためには、人との協調、行政、JAなど自治体、業界団体とのリレーションに加えて、自分たちでも共同体を作る、そこで共同作業を行うといった営みが必要です
非常に面倒ですが、だからこそ非常事態に互いに手を取り合うことが可能となるのです
想像してみてください 普段はこうした営みからは背を向け、自分の身が危うくなった時にだけ人や行政にすがる行為は周囲からどう見えるでしょうか…
日頃から付き合いがあるからこそ共に助け合うことが可能になるということをよく心得ましょう
包摂的社会
ただ、難しいのは、そこに「個」の生き方の問題もあるということです
わざわざ僻地や極限の地を選ぶということは、何かそこに理由がないでしょうか
例えば、他者に干渉されず、一人で自由に、思うままに農業に打ち込みたいという
現代社会への批評精神から都市生活を離れてあえて極限の地を選んでいるとしたら
もし、そういう心理やイデオロギーが働いているとしたら
つまり本人が『積極的孤立』を選択しているという場合です
それも一つの生き方ですが、私たちはこの選択をどう受け止めればよいのでしょうか
本人の自由意志と自由主義社会を前提にすると、最低限の「自己責任」は問われる、ということはあるでしょう
しかし、そうした場合だとしても、私たちは人道上「包摂的社会」を目指すべきです
本人としては「周囲と距離を置きながらも、最低限のつながりをどう確保するか」が課題となるでしょう
また地域社会としては「自己責任の範囲と地域社会の包摂のバランス」をどう考えるか、そこが課題です
なるべく排他的でない、様々な人が生きていける地域社会をビジョンに持ちましょう
そしてこれも地方ではよくあることですがアンガーコントロールを心がけたいものです
「怒り」や「感情」のコントロールです
「対立」からは何も生まれません どうか皆さんはどんな時でも「対話」を心がけてください
さて次章では災害と地域における組織ボランティア(慈善団体)の問題について述べます
実はここでも農家さん同士が連携し、共同体(組織、組合)を形成していることがポイントになります