人を「集める政策」と「増やす政策」
37.5%
郡上市の令和3年度決算状況を見ると、財政力指数0.32、実質収支比率7.2%、実質公債費負担比率11.8%、将来負担比率72.1%となっています。地方債現在高は29,813,022(千)円。ざっと300億です。財政力指数は豊かさ、終始比率は黒字の規模、公債負担比率はお小遣いのうちどれだけを借金の返済に充てているかです。
どうでしょうか。公債負担比率は18%から借金に審査が必要になりますし、将来負担比率などは逼迫している自治体だと200%、300%はあるわけですから、郡上市の状況は「それほどでもないな…」と感じた方もいるかもしれません。
一方で、郡上市の人口ですが「令和2年度の国調」では38,997人。平成27年度に対して△7.3%で、お隣の下呂市△9.4%に次ぎ岐阜県で最も人口の減少が激しいエリアです。この時点で65歳以上の人口比率は37.5%と40%に迫る勢いです。平成27年の調査からおよそ3,000人近い人が消失しました。
ちなみに転入者は2,316人、転出者は2,820人で超過率は1.3%でした。
つまりどういうことかいうと、経営がただちに悪いとは言えないものの、郡上市は高齢化していく人、死んでいく人、そして出ていく人が増加しており、このまま行くと近い将来おそらく大変なことになるだろうと言うことです。マジです。
進行する過疎化、高齢化、少子化に対して、郡上市は第一次、第二次と長期的、発展的な総合計画を策定しています。しかし、例えば令和3年に改定された策定案では令和7年度の目標値を38,000人としていますが、既に達成出来そうにありません(令4年の住基では3.9万人余ですが…)。
これ、正直、数字を見てもピンと来ないんじゃないでしょうか。かく言う私も郡上に住んでいると「なんとかなるんじゃないか」という正常化バイアス的なもの?を感じることがあります。怖いですね。
どうしてそんな風に思ってしまうのでしょうか。
「過疎化する観光地」
これは、郡上という土地が年間数百万という単位の観光客、大規模なインバウンド市場を歴史的にずーっと受け入れてきた事と無関係ではない気がします。
そう。郡上は「自治体」としては衰退しつつあるというのに「観光地」「遊び場」としては周囲から絶大な人気を誇り、人に恵まれてしまっているのです。それがなんとなく「郡上は大丈夫なんじゃないか」というムードを私たちに与えてくれているのではないでしょうか。
でも人が年老いて筋肉がやせ細り、肌に張りがなくなり、足腰が立たなくなるように郡上の「自治体としての老化」は確実に進行しており、その速度はどんどん早まっています。
実は、このように年間を通して数百万という観光客、インバウンド市場を持ちながらも、「自治体」としてはやせ衰えていく…という現象が日本の各地で起きています。
「過疎化する観光地」「オーバーツーリズム」などという言葉を聞いたことがないでしょうか。郡上もご多分に漏れず、各地の観光地と同じ道を歩んでいるというわけです。
オーバーツーリズムは、一般に過度に観光客が押し寄せる事で生じる「民間のトラブル」といったイメージがありますが、それだけではありません。3次産業以降の観光業、情報産業が強い刺激を受けますがその多くが地元企業ではない一方で、地元の地場産業である1次、2次産業は減衰していくのです。来訪者による消費が必ずしも地域住民や自治体の豊かさに還元されず、行政が人々の暮らしや雇用を守ることから乖離してゆくといった問題が指摘されています。
つまり、昔はともかく「現代においては、お客さんがたくさん集まったとしても、それが必ずしも地方自治体を豊かにしたり、地域の人々の暮らしや雇用を創出してくれるわけではない」という厳しい認識が必要だということです。
「観るまち」から「住むまち」へ
別の言い方をすれば「人を集める」政策と「人を増やす」政策は根本的に異なるものだ、ということなのです。
「郡上に来ると楽しい」は「郡上は住みやすい」「郡上に住みたい」に近似値かもしれない、けど、イコールではない、ということです。
郡上は「人を集める」政策は得意だし、十分にやっています。それはそれで大事なのでこれからもやっていきましょう。
しかし、これから郡上が絶対に挑戦しなければならない課題があります。
それは「人を増やす」政策です。より多くの人に「住処」として選ばれるようなまちづくりが必要です。
まあ、日本全体で人口が減少し高齢化が進む中「人を増やす」というのはおよそ現実味がありませんが、明石市のような例もあります。ここでは「人を増やす」と言っても、若い人や移住者など一部の人たちを増やす、人口の減少や高齢化を食い止めることが出来ないにしても、なるべく緩和し穏やかな変化に持っていく、なるべく人を土地に留めるといった具合の意味だと考えてください。
ともかく、これからの郡上には「人を集める」政策に加えて、「人を増やす」こと「人を留める」こと、なるべく人に安心してもらうこと、長く郡上に住んでもらう、そうした政策がもうひとつ必要になっていくだろうということです。